別のとこに書いた文章だけど、ここにも載せておく。
近所の書店でのこと。
仕事の参考資料が欲しくて専門書のコーナーを物色していたらちょうど僕が見ている本棚を越えた向こう側が児童書のコーナーになっているようで孫に本を買ってあげるために来店したらしいお婆さんと小学生低学年とおぼしき子どもの会話が聞こえてきた。
僕も子どものころよく本屋さんに連れて行ってもらっていろいろ買ってもらっていたなあなんて思いながら聞くともなしに会話を耳に入れていたらどうも様子がおかしい。
お婆さんの声がだんだんとげとげしくなっている。
「ここは図書館じゃないんだからそんなに何冊も出したり戻したりしないの。」
「早く選びなさい。」
「そんなアニメの絵みたいなのが書いてある本は買っちゃだめ。」
「その本は絵ばっかりじゃない、ちゃんと文字がたくさんある本を選ばなきゃだめでしょ。」
「ちゃんとした本を読まないとバカになっちゃうんだから。」
子どもの方はそんなお婆さんに対して「えー、やだ」とか「ちゃんと中見ないとどれがおもしろいかわかんないし」とか小声で反論してるんだけど全てに言い返されてだんだん声が小さくなっている。ついには「もう欲しくない」って言い始めた。
「何言ってるの、せっかくお婆ちゃんが買ってあげるって言ってるんだから欲しい本を選びなさい。」
「どれがおもしろいかわかんないなら、お婆ちゃんが選んであげる。」
僕の頭の中は「違う違う、そうじゃ、そうじゃない!」とか「エゴだよそれは!」とかお婆さんに対する突っ込みでいっぱいになってしまった。
そんなことしてその子が本好きとか読書好きになるわけないじゃん。
とりあえずその子がお婆さんと一緒に本屋さんに来てるってことは、最低限お婆さんから何かを買ってもらえる喜びを感じているわけだから、その喜びを、その子の好奇心だったり趣味だったりを通して本に対する興味に繋げてあげなきゃだめじゃん、新しい世界に触れることとか新しい知識を得られることの喜びを感じさせないと好きになるわけないじゃん。まずは本を選ぶことや本を読むことを好きにならないと本を読む習慣なんて身につくわけないじゃん。
お婆さんに言いたいことがいろいろ僕の頭の中を巡るうちに、どうやらお婆さんが強引に一冊の本を選んだらしい。
「これで本当にいいのね?」
「せっかく買ってあげるんだからちゃんと全部読みなさいよ。」
「全部読んだらちゃんと読書感想文を書くこと。」
「何言ってるの、感想文は先生に出すんじゃなくてお婆ちゃんに出すの。」
「だってちゃんと読んだかお婆ちゃんにわからないじゃない。」
「じゃあどの本なら感想文を書いてくれるの?」
ついに子どもは泣き出してしまった。
そしてお婆さんはその子が泣き出したことについて怒り始めた。
僕がしゃしゃり出るわけにもいかず、ただただいたたまれなくなって別の書籍コーナーに移動したけど子どもの泣き声は聞こえてくる。
僕もなんだか泣きそうになって涙をこらえる。
しばらくしたら子どもの泣き声が聞こえなくなったので、児童書のコーナーの辺りをチラと見たら一冊の本を持ったお婆さんがレジに向かって歩いている。その3mくらい後ろをうつむいた子どもが涙を拭きながら歩いている。
そしてレジからは「せっかく孫のために本を買いに来たのにこんなに時間がかかって酷い目に会った」というような内容の愚痴を、お婆さんが店員に大声で言ってる声が聞こえてきた。
いろんな意味で悲しいやりとりに遭遇してしまった。
きっとあのお婆さん自身が本を読むことの喜びを知らないままあの年齢になってしまったんだろうな。
願わくば、(おそらくお婆さんが強引に選んだ)一冊があの子どもの人生を変えるほどのおもしろい本であらんことを。
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