昨今ニュースで再三取り上げられている「イスラーム国」について、彼等が「どこから来てどこへ行こうとしているのか」を、主にアル=カーイダが行ったとされる2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降の世界情勢・中東情勢を軸にイスラーム思想とともに紐解いている。
おそらく「イスラーム国」について何かを考えるための基礎知識を得られる最良の一冊だと思う。
ただし読む前にイスラームについてのある程度の知識、イスラーム教の成立過程、スンナ派とシーア派の対立構造やイスラーム王朝史などを頭に入れておいた方がより理解が深まると思う。
僕がこの書籍を手に取ったきっかけは2015年1月20日に発生したイスラーム国による日本人人質事件の衝撃と、その際にいろいろネットで情報を調べていた時に目にした「イスラーム国の衝撃」の著者である池内恵氏のブログ記事「「イスラーム国」による日本人人質殺害予告について:メディアの皆様へ – 中東・イスラーム学の風姿花伝」の冷静で真摯な語り口に興味を持ったから。
これまでいろいろと「イスラーム国」についての知識を得ようとしてきたけれど、断片的なものが多く、またそれらをまとめて一つの体系的知識にするには僕の中にイスラーム世界の知識が足りずにもどかしい思いをしていたのだけど、この書籍ではその地理的・歴史的・思想的背景からわかりやすく解説してあるため、僕の中でこれまで点として存在していた事件や知識が一つの線に繋がったように感じる。
特に僕がそれまで持っていた「彼等はメディアで言われているような狂信的なテロリスト集団なのか?」「仮に狂信的なテロリスト集団だとすれば彼等がアル=カーイダとは違い領土を持つことができた理由は何か?」「なぜ彼等の元に欧米から若者が集まってくるのか?」「他のイスラーム国家や宗教的指導者から存在を否定されない理由は何か?」という4つの大きな疑問について答えを得られたことは大きい。
もちろんこの一冊を読んだだけではその答えが正解かどうかはわからないけど、「ひとつの見方」を与えられ、正解に近づくための大きな知識を得られたということは断言できる。
この書籍を読んで「イスラーム国」がいかにやっかいな問題であるかということはよく理解できた。
彼等がやっていることはテロリズムでありイスラームを信じる者たちの理想郷を作っているわけではない、しかし彼等は戦略的にコーランやイスラーム法に則って自らの行動に正義を与えている。そして「イスラーム国の方がマシ」という中東の政治的混沌が存在している。
現状の「イスラーム国」がどこかの勢力によって打倒されたとしても、おそらく第二第三の「イスラーム国」が発生するであろうと容易に想像出来る。
またこれを書いている時点では日本人人質事件は解決していないし、今後も同じような事件が起きる可能性は高い。
その際にその現実をどのように認識し、どのように行動すれば良いのか、この一冊を片手に考えていければと思う。
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