NODA・MAP第19回公演「エッグ」の感想

2015年4月19日(日)、北九州芸術劇場で鑑賞。

改装中の劇場から寺山修司の未発表原稿が見つかり、その物語の中へ、現実へ、空間と時代を遡り、また戻りとめまぐるしく展開する舞台。
寺山修司の未発表原稿を読み解き、誤解が露わになり覆され、読み直し読み解きと繰り広げられる劇中劇が徐々に現実とリンクし、「エッグ」と呼ばれる謎のスポーツの断片が浮かび上がる。虚構と現実、欲と信念、英雄とスケープゴートなどのモチーフが絡み合い、いつしか第2次世界大戦中に満州で活動した731部隊へ物語が集約していく。

2012年の「THE BEE」以来久しぶりに野田秀樹の芝居を観ました。
率直な感想を一言で表せば「残酷で美しい舞台」だったと思います。

この芝居で一番凄みを感じたのは橋爪功さんの演技力。飄々とした軽さから舞台上の時間の流れを止めてしまうような重厚さまで場面と役柄に合わせて変幻自在に「そこにいる」存在感は素晴らしいとしか言い様がありませんでした。この芝居の根底に流れる狂気を一番に体現していた役者さんだったと思います。
彼の演技を観られただけでもチケット代が安く感じられたほどです。

もちろん他の出演者の方々も素晴らしく、中でも深津絵里さんの声の表現力、妻夫木聡さんの軽さと明るさ、などなど演技力、身体を存分に使った演劇的表現など、役者によって芝居は作られるのだということを存分に堪能させられました。

そしてその役者さんたちが全身で紡ぎ出す野田秀樹の脚本と演出。
「エッグ」と呼ばれるなんだかよくわからない謎のスポーツについてあれこれ断片を見せるというやり方が面白いですね。ああやってディテールだけはやけに詳しくして「エッグ」そのものを全く見せないことによって、観客の想像力に寄りかかりながら切り口を見せていくという、演劇というメディアでしか作ることの出来ないもので、演劇が持ってる本質のようなものも同時に提示していく様は鮮やかでした。

また言葉や身体、舞台装置、音響効果、映像効果を総動員して、改装中の劇場から「エッグ」の控え室、アイドルのステージとその楽屋、かつて満州国に立てられていたであろうコンクリート造りの建造物、満州鉄道とそのレールが敷かれていたであろう荒野へとめまぐるしく移り変わる舞台の様相も、いつもながらではありますが、見事というしかありません。

さらに今のちょっとヒリヒリしているような時代を切り取り批評し、ささくれの様な異物感を観客に突き刺していく脚本も素晴らしい。
まずもって演劇というのは虚構の世界です。その虚構の世界の中にさらに寺山修司の遺稿という虚構を作りだし、さらに虚構の存在であるアイドル、スポーツ選手、あるいは国家も本質的には虚構の存在と言えるかもしれませんが、そういった有象無象の虚構によって動かされ走らされ押しつぶされ消し去られた人間の物語であり、それもまた虚構であるという重層的な枠組みを提示して終わるという構造が面白く、だからこそたまに見え隠れする真実のようなものの美しさと残酷さが胸に響いてきたと思います。

特に物語の比重が731部隊の人体実験などに傾いてからの深刻で悲しく残酷なシーンの展開は目を背けたくなるようなものでありながらも、目の前に見える舞台は鋭い美しさを際立たせていったため、恐ろしいのに目を背けられないという、野田演出ならではの体験も素晴らしかったと思います。

久々に観た野田秀樹の芝居、心底堪能しました。

最後に劇中で深津絵里さんが演じる苺イチエの楽曲のPVを貼っておきます。

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